行き詰まるフリーミアム
昨年後半から、無料で提供されていたwebサービスの内容が縮小されるというニュースが目に付くようになってきた。
- 2020年9月にIFTTTの有料プラン新設と無料プランの制限導入が報じられ、
- 2020年10月からEvernoteのwebインタフェイスも、デバイス数のカウントに含まれるようになり、
- 2020年11月には、 2021年6月より Google Photo の無料のストレージ容量が15GBに制限される事が発表された。
- 更に、2021年2月、2021年3月より、 LastPass Free (無料版)のユーザーは、「PC」か「モバイル」の何方かの種のデバイスでしか利用できなくなる。
Googleという巨人が流れに乗っている以上、この流れは、もっと他のwebサービスにも波及する可能性が高いだろう。「webサービスは無料」が見に染みているユーザーにとっては冬の時代の到来である。
「基本機能は無料で提供し、+αを求めるユーザーには課金を求める」という展開方法をフリーミアムモデルという。ソフトウェアのような、提供に関わるコストが極低い場合に有効とされてきた手段だ。webサービスやスマホ用アプリでは御馴染みとなっている。
昨今の無料提供プランの「締め付け」、もしかしたら、フリーミアムモデルが行き詰まっているという事なのではないか。フリーミアムモデルが広まりすぎてしまい、我々サービスを受ける側が、それに慣れすぎてしまった。「当たり前」と捉え、有り難みを感じなくなってしまい、フリーミアムモデルの効果が果てしなく軽くなってしまっているのではないか。嘘か真か「有料であれば、どれほど優れたソフトウェアであろうと最低の評価を付ける」という人も居るという。
そもそも「無料」でサービスや物の提供を受けられているというのは、本来おかしな話である。何かを提供する側には、それについてのコストが発生している訳で、そのコストを上回る利益が回収できないようでは、サービスや物を提供する意味はサッパリ無いのだ。「タダ働きして」と言われて「はい分かりました」と答える奴は居ない。
これからのフリーミアム
尤も、これからも変わらず「無料提供」が期待できる分野は在る。代表的な物はソシャゲだろう。「無料なのは無料なだけの理由が在る。無料で使っているお前はサービス提供元からしたら『お客様』ではなく『商品』なのだ」という話が在る。この場合、無料ユーザーは、課金ユーザーにとっての体の良いサンドバッグとして、ゲーム提供元から「商品」として扱われているという事だ。このような界隈では、「客」ではなく「商品」として扱われる事を受け入れられるのであれば、無料でサービスの提供を受けられる事を期待できるだろう。
では、それ以外ではどうなるか。
広告が在るではないか、広告掲載料で利益を上げればいいじゃないかという意見も在るだろうが、恐らくそれは上手く行かない。何しろ、今のウェブ広告は嫌われ者だ。妙にセクシャルな画像のゲーム広告、閲覧者の焦りを突こうとする健康や美容の広告、時間を置いて表示させ誤タップを狙う広告……ページの半分以上を広告が占めている事も。その結果、コンテンツ提供者を干上がらせる悪である筈の「広告をブロックする」という行為は、その行使について大義名分を得てしまっている。この状況が解消されない限り、サービス提供コストをカバーするだけの広告収入は期待できないだろう。
私は、今後、フリーミアムモデルで提供されるのは、あくまで「試用」の範囲迄となっていくのではないかと考えている。IFTTTのそれである。EvernoteやLastPassも、そのアイデンティティに大きく関わる部分を制限しているという意味では、これにあたるだろう。「そのサービスはどのようなものか」を確認できるが、常用するには厳し内容を無料で提供する。気に入ったなら課金して常用出来るレベルに引き上げてね、という形だ。
個人的には、無料での提供が試用レベルになるのであれば、「有料プランで提供されるが無料プランでは提供されない機能」は無くして欲しい。期待して課金したら思っていた物と違ったでは、きちんと試用出来たとは言えないからだ。使用に回数や時間の制限を設けて良いので、正しく試用させて欲しい。
また、何とか「機能の量り売り」が来ないものだろうかと考えている。例えば、「Evernoteで同期可能なデバイス数を1つだけ増やしたい。アップロード容量等の他の条件は無料プランのままでいい」という場合に、月600円を払えるかというと、かなり躊躇する。同期デバイス数の増加1台あたり○円、アップロード容量を10Mバイト増やす毎に□円……という様に、適切なレベルのサービスを適切なコストで利用できれば、課金する人間も増えるのではないだろうか。まぁ、これは提供側のコストも掛かるので、なかなか難しいかもしれないが。